『俳諧季寄これこれ草』 加藤良左衛門正得編 著 嘉永六年(1853)

「朝顔に釣瓶とられてもらい水」 これはご存知加賀千代女の名作。
このように俳句には日本の四季の移り替りを句の中に詠み込むことが芭蕉以来の作句の作法のようである。そしてその季節を表すのに植物の時々に見せる現象は季語に最も多く取り上げられるようになった。ところが、実物があって句が浮ぶ事もあれば、さてこの月、この句にはどのような植物が、或いはどんな花が咲いているのか、その手引書として本書が編集された。著作は備中岡田藩士、加藤良左衛門正得。
嘉永六年大坂の版元から上梓された上下二冊本である。内容は一年十二ヶ月に分け、各植物図入にて植物の特徴を記す。
例えば「センニチコウ」は「漢名千日紅四月ノ季」と図中に記し、本文は「千日紅」人家ニ栽テ花ヲ賞ス モト唐種ナリ 春彼岸ノ後種ヲ下ス生ジヤスシ 葉ノ形柿ノ葉ノ如クニシテ細長クヤワラカナリ 長サ三四寸幅一寸許リ対生ス 茎ニ葉付クトコロ太クフクレ淡紅色ニシテ イノコヅチノ茎ノ如シ(中略)夏葉ノ間枝ヲ分チ末ニ一花ヲ着ク 肥タルモノハ三花着モアリ 紅紫色ニシテ細弁ナリ 形ヤマモモノ如クニシテ大ナリ 始メ円ク老ルニ順ヒ漸々長クナリ寸余ニ至ル(中略)一種淡紅花ノモノアリ 又白花ノモノアリ形皆同ジ。
植物をよく観察し読む者に理解しやすい記載であり、植物図鑑としても役立つ書籍である。
隠居 小笠原左衛門尉亮軒 記 (資料 雑花園文庫蔵)