公益社団法人        
園芸文化協会

園芸文化博物館 2026年4月号

キリシマツツジ見物のための案内図
 「源氏名寄躑躅の花道」

観蓮会写真1

「源氏名寄躑躅の花道」 雀亭記(年代不詳)

本図は、18世紀前半に江戸・染井で開催されたツツジ観覧のための案内図です。中央には染井の花屋・伊兵衛が描かれ、周囲には二十一軒の花屋(植木屋)が並び、それぞれが自慢のツツジ品種を紹介しています。品種名には『源氏物語』に由来する名称が付けられており、見物客の興味を引く宣伝文句とともに、当時のツツジ人気の高さと旺盛な購買意欲を示す資料となっています。

例えば、画面右下の「花屋留次郎」の店には「桐壺」「帚木」「空蝉」の三品種が展示されています。また、画面中央の「花屋伊兵衛」(伊藤伊兵衛)には、将軍家から拝領した唐楓や、伊兵衛が所有したキリシマツツジの名木「面向」「無三」「唐松」の三銘木も描かれており、染井が名所として栄えていた様子がうかがえます。さらに、各花屋の図には源氏香図も添えられています。源氏香とは、五種類の香を組み合わせて香りの異同を聞き分け、その結果を『源氏物語』の帖名に対応させた五十二種類の図柄で表す香道の遊びであり、当時の文化的教養の高さを示す意匠です。

案内文には、五十四種の花があるものの紙幅の都合で一部のみを記したこと、珍しい花は実際に訪れて見てほしいことが述べられています。キリシマツツジは薩摩国・霧島山を原原とし、正保年間に京都へ運ばれた名花で、「富士山」「麟角」「面向」「無三」「唐松」などの名が与えられました。このうち二種は禁裏に植えられ、残る三種が染井で花を咲かせました。明暦二年には接ぎ木が成功し、花色はいっそう美しくなり、品種も五十四種に整えられました。源氏の栄華になぞらえるほど華やかな、春の染井のツツジをぜひご覧ください、と結ばれています。

一般社団法人雑花園文庫
小笠原左衛門尉亮軒