【江戸の園芸で遊ぶ】@名古屋 2026年8月23日開催
今回のテーマは
花の仕掛人 伊藤伊兵衛
「園芸隆盛を導いた、名匠の創意」

2026年8月23日、当協会主催による講座「江戸の園芸で遊ぶ ― 花の仕掛人 伊藤伊兵衛『園芸隆盛を導いた、名匠の創意』」を開催いたしました。 本講座では、雑花園文庫に所蔵される江戸〜明治期の図譜・園芸書・錦絵などを手がかりに、江戸の園芸文化を読み解きました。多数の皆さまにご参加いただき、心より御礼申し上げます。図は『武江染井翻紅軒霧島之図』
今回のテーマ: 『花の仕掛人 ― 伊藤伊兵衛と江戸園芸の誕生』
江戸・染井の「伊藤伊兵衛」、江戸園芸をつくった植木屋です。伊藤家は代々「伊兵衛」を名乗り、 特に 三代目(三之丞) と 四代目(政武) が園芸史に大きな足跡を残しました。5月の本講座でツツジをテーマにしたときに三之丞の「錦繍枕」などツツジ関係の資料、また政武の「歌仙楓」など紅葉をテーマにした資料は前年に公開しましたので、今回は地錦抄を中心に紹介しました。
■ 三代目・伊藤伊兵衛三之丞
• 図譜による園芸体系化の創始者
• 『錦繍枕』(1692)で日本初の園芸植物図説書を刊行
• 『花壇地錦抄』(1695)で総合園芸書を確立
• 江戸園芸を「視覚化」し、庶民文化として広めた
■ 四代目・伊藤伊兵衛政武
• 園芸を美学・文学の領域へ押し上げた人物
• 楓図譜の体系化(古歌僊楓・新歌仙楓・追加楓葉集)
• キリシマツツジの普及、吉宗との交流
• 「翻紅軒」を中心に江戸園芸の黄金期を象徴
地錦抄 ― 全シリーズ紹介
今回の講座では、地錦抄の全巻を紹介しました。
① 『花壇地錦抄』(江戸版)
• 元禄8年(1695)
• 江戸版独自の構成があり、書誌的に重要
②『花壇地錦抄』(京都版)
• 元禄8年(1695)
• 編著:伊藤伊兵衛三世(三之丞)
• 江戸版に次いで出版
③ 『増補地錦抄』(宝永7年・1710)
• 編著:伊藤伊兵衛政武
④ 『広益地錦抄』(享保4年・1719)
• 編著:伊藤伊兵衛政武
• 観賞園芸一般
• 増補地錦抄と通巻(9〜16巻)として読むと体系が立ち上がる
⑤ 『地錦抄附録』(享保18年・1733)
• 編著:伊藤伊兵衛政武
• 観賞園芸一般の補遺
• 新品種・追加情報を収録
⑥『 花壇大全地錦抄』(増補花壇大全)
• 宝暦7年〜文化10年(1757〜1813)
• 華文軒風子 撰
• 8冊
• 「伊藤伊兵衛三之丞、政武による一連の書を再構成して板行したもの」
• 磯野直秀氏は「剽窃本」と評価
⑦『 増補地錦抄』(天保7年・1836)
• 編著:伊藤伊兵衛政武
• 20冊
• 広益地錦抄7冊、地錦抄附録4冊を含む大部の総集編
⑧ 『武江染井翻紅軒霧島之図』(享保後期~元文頃・1730-1740)
• 編著:伊藤伊兵衛政武 近藤助五郎清春 画
元文期(1736~1741)末頃の伊藤伊兵衛の庭園を当時の人気浮世絵画家である近藤清春が描いたものです。キリシマツツジが見ごろとなる4月下旬頃から花見見物客への宣伝用として刷られたもので、今の観光案内パンフレットになります。
朝顔資料 ― “前年未公開分のみ”紹介
前年も朝顔関係の資料を紹介しましたが、今年は、前年に公開しなかった資料を展示しました。
今回紹介した朝顔資料
● 大田南畝「梅干しや 朝顔鉢の置き処」
• 書幅
• 南畝の狂歌と園芸文化の交差を示す貴重資料
● 『牽牛花水鏡(前編)』 文政元年(1818)
• 著:与住順庵
• 図:洞水
• 朝顔の栽培法・葉形・花形を詳述した育成マニュアル
• 初版
● 『牽牛品(二編)』 文政2年(1819)
• 著:峰岸竜父
• 『牽牛品類図考』の続編
• 花形・葉形の癖を詳細に記述
• 図鑑的価値が高い
●『 朝顔花合』 嘉永元年7月19日(1848)
• 選者 耕雲亭他
• 朝顔会の花合せの番付
• 出品者のひとり杏葉館は、旗本・鍋島直孝(北町奉行)だったなど、武士と植木屋が一緒になって楽しんだ要素を紹介
●『朝顔 秋豊帖 松の巻・假君子・雪の巻』 其堂筆(明治38〜43年頃)
肉筆画 2帖/計147図 全て変り咲朝顔図」、変化咲き朝顔の極めて貴重な肉筆資料です。
今月のボタニカルアート ―河原崎奨堂『郷土の花』
昭和54年(1979)に芸艸堂から刊行された、全国の「都道府県の花」を木版画で収録した画集です。 制作は昭和期を代表する図案家・木版画家 河原崎奨堂(1899–1973)。NHK「植物友の会」など、戦後の植物文化普及活動との連動で、各都道府県の“象徴植物”を、図案とした画集です。
奨堂の花版画は、
• 余白の美
• 花の存在感を際立たせる構図
• 装飾性と写実性の高度な調和 が特徴
「植物図で卓越した才能…装飾性と写実性が高い次元で調和」
■ 会場では「花の名前&都道府県当てクイズ」で大盛況
奨堂の図版を用い、 花の画像から「花名」「どの都道府県の花か」を当てるクイズ を実施。 参加者の皆さまが大いに盛り上がり、 江戸園芸と現代の植物文化をつなぐ楽しい時間となりました。
まとめ
今回の講座は、 伊藤伊兵衛の地錦抄を中心に紹介しました。また前年の変化朝顔の続編として、未公開資料の公開と文化史的補足 を行いました。
江戸園芸の成立から昭和の植物図案まで、 日本の植物文化の連続性を体験していただけた回となりました。
ご参加くださった皆さまに深く御礼申し上げます。
(資料:雑花園文庫蔵) (事務局 丹羽理恵)
『朝顔 秋豊帖 松の巻 假君子雪の巻』
『地錦抄附録』 サクラソウ
『郷土の花』(河原崎奨堂)
