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【江戸の園芸で遊ぶ】@名古屋 2026年6月28日開催

今回のテーマは
『 日本のユリの歴史 古典に息づく、ユリの系譜をたどる』

本講座では、雑花園文庫に所蔵される和本・錦絵・洋書図譜を中心に、古代から江戸、そして明治期・海外へと展開するユリ文化の歴史をたどりました。古典籍に記されたユリの姿、江戸の園芸図譜に描かれた多様な品種、明治期の輸出図譜や海外モノグラフに至るまで、ユリが日本文化の中でどのように息づき、世界へ広がっていったかを読み解く内容となりました。

図は『大日本植物志』牧野富太郎

1. 古事記に見るユリ ― 日本最古の記録としての「山由理草」
講座冒頭では、日本でユリが初めて文献に登場する『古事記』を取り上げました。

● 『古訓古事記』(享和3年・1803)  太安万侶撰・本居宣長説・長瀬真幸訓による古訓本。
「河の辺に山由理草多に在りき…」と記され、山由理草=ヤマユリとされます。  ユリの古称「佐韋(さい)」が示され、地名の由来となるほど象徴的な植物であったことがうかがえます。

古代祭祀「三枝祭(ゆりまつり)」にも触れ、ユリが古代より神事と深く結びついていたことを紹介しました。

2. 万葉の時代 ― 和歌に詠まれたユリの姿
続いて、万葉集の世界におけるユリの表現を紹介しました。
● 『万葉和歌集 校異』(文化2年・1805)
 橋本経亮校正による20冊本。三井家朱書入り。
 万葉歌に詠まれるユリが詠まれた歌2首を紹介し、万葉の人々がユリに寄せた思いは、恋の象徴としての繊細さと、言葉遊びに託す親しみ深い感情の両面を表していました。

3. 江戸時代 ― 図譜に描かれた多様なユリと園芸文化の成熟
江戸期はユリの図譜が一気に増える時代であり、雑花園文庫の資料にも豊富に残されています。

(1)百科図鑑・本草学の系譜
● 『訓蒙図彙』(寛文6年・1666)
 日本最初の百科図鑑。山丹(ヒメユリ)、巻丹(オニユリ)などを収録。

● 『地錦抄附録』(享保18年・1733)
 伊藤伊兵衛政武による園芸書。
 帯化したオニユリ「扇子百合」の図が掲載され、江戸園芸の観察眼の高さを示す資料。

(2)絵手本・写生図譜の発展
● 『絵本野山草』(宝暦5年・1755)
 橘保国画。185種の花草を描く絵手本。  タメトモユリ、カノコユリなど多様なユリが登場。

● 『天香図譜』(慶応2年・1866)
 石亭源正興画。ユリの図譜として貴重な写本。

● 『万象写真図譜』(文久3年・1863)
 歌川貞秀画。ボタン・シャクヤク・ユリなどを彩色木版で描く。

● 『百合図巻』(嘉永6年写・1853)
 外国産ユリと国産原種・園芸品種を記録した写本。全120余図

(3)食文化としてのユリ
● 『備荒草木図』(天保4年・1833)
 建部清庵著。オニユリの項に「根を食う 又葉もうゆで食べし」とあり、飢饉時の救荒植物としてのユリの役割を紹介。

(4)浮世絵に描かれたユリ
● 歌川広重(初代)『四季の花園 百合と鉄線』(弘化4年・1847)
 「湯上りに水まく庭や 百合の花」の句とともにスカシユリを描く。

● 豊原国周『見立十六楽玩之内 挿花の楽しみ』(明治4年・1871)
 花魁が姫百合をいける図。  ユリが生活文化・風俗の中で愛された様子を示す。

江戸の園芸文化が、観賞・写生・食・風俗の各側面でユリを豊かに扱っていたことを紹介しました。

4. 明治時代 ― 図譜の近代化と輸出産業としてのユリ
明治期にはユリが輸出品として重要視され、図譜も近代的な形へと発展します。

● 『日本の百合(Lilies of Japan)』(横浜植木株式会社、明治32年・1899)
 42品種の原色図譜。英文カタログとして海外向けに作成。

● 『彩色写生輸出百合花集』(池田次郎吉編、明治29年・1896)
 輸出用の彩色ユリ図譜。

● 『百合百花譜』(明治初年頃)
 百種のユリ彩色図譜。

● 『大日本植物志』牧野富太郎(明治33年〜)
 第2集にサクユリ図を収録。繊細な写生が高く評価される。

ユリ球根は明治41年には1200万球輸出され、園芸・農産物として国際的な価値を持つようになったことが紹介されました。

5. 海外図譜 ― 世界に広がるユリ文化
最後に、ユリが世界へ広がる過程を示す洋書図譜を取り上げました。

● 『A Monograph of the Genus Lilium』 Henry John Elwes  (1877–1880)
 Walter Hood Fitch画による48図の銅版手彩色図譜。  1933–40、1965に続編が刊行され、世界各地の原種を網羅したユリ図譜の金字塔。日本原産のヤマユリ・サクユリ・スカシユリなどは、19世紀以降のヨーロッパで大きな驚きをもって迎えられ、後のオリエンタル・ハイブリッド(カサブランカなど)の育種に決定的な役割を果たしたことが解説されました。

まとめ
本講座では、 古事記 → 万葉 → 江戸 → 明治 → 海外図譜 という長い時間軸の中で、ユリがどのように日本文化に根づき、世界へ広がっていったかを、雑花園文庫所蔵の豊富な資料を通して紹介しました。
和本・写本・錦絵・洋書図譜が示すユリの姿は、 自然美・信仰・園芸・食・芸術・国際交流 と多様な領域にまたがり、ユリが時代を超えて人々に愛され続けてきたことを物語っています。
(資料は雑花園文庫蔵)

(事務局 丹羽理恵)

備荒草木図

百合図巻

A Monograph of the Genus Lilium

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