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【江戸の園芸で遊ぶ】@名古屋 2026年5月17日開催

今回のテーマは
『 江戸の後期の植物図譜と本草書の世界   花菖蒲の資料とともに』

本講座では、雑花園文庫に所蔵される貴重な本草学資料を中心に、江戸後期から明治・大正期にかけての植物図譜の展開と、季節の花としてハナショウブ・カキツバタをめぐる園芸文化を紹介いたしました。 和本・洋書・錦絵など多様な資料を通して、植物図譜の発展と江戸の花文化の豊かさを読み解く内容となりました。


(図は『本草通串證図』)

1. 岩崎灌園『本草図譜』とその周辺
講座の前半では、江戸後期の本草学を代表する図譜、岩崎灌園(岩崎常正)『本草図譜』を取り上げました。本資料は、本草綱目の分類法に従っているものの、本草学から抜け出して植物学としての立派な図譜です。

文政年間に成立した『本草図譜』は、
• 95冊に及ぶ大規模な植物図譜
• 精緻な写生に基づく図
• 和漢の文献を広く参照した記述
を特徴とし、近代植物学への橋渡しとなった重要資料です。

2. 前田利保『本草通串』とその図譜
続いて、富山藩主・前田利保による『本草通串』を紹介いたしました。稲生若水『庶物類纂』に邦書の引用がないのを補う目的で広く和漢の書を引用しています。『本草通串』は、カナ混じり和文で書かれた読みやすい本草書で、 その図譜である稀覯本(きこうぼん)の『本草通串證図』(嘉永6年)も併せて展示されました。

3. 飯沼慾斎『草木図説』
安政3年(1856)刊の飯沼慾斎『草木図説』は、我国で最初の本草綱目に拠らない植物図説 とされ、日本植物学史上の画期的な著作です。江戸後期の植物学が、中国本草学から独自の体系へ移行していく様子が示されました。

4. 菖翁による花菖蒲文化 —『花菖蒲培養録』
季節の花ハナショウブについては、 江戸後期の園芸家 松平定朝(菖翁) の著作を取り上げました。

『花菖蒲培養録』(嘉永6年原著)
「菖翁培養録の最高の伝本。花菖蒲の培養法

『花菖培養録草稿』(嘉永4年)
「松平菖翁自筆本とす」と記されています。菖翁は江戸の花菖蒲育種を大きく発展させた人物で、 本書は江戸の園芸技術の高さを示す貴重資料として紹介されました。

5. カキツバタ文化 —『燕子花百瓶』
文化元年(1804)刊の『燕子花百瓶』では、「カキツバタ 四季様々の生け方」 が紹介され、江戸のいけばな文化と花菖蒲・カキツバタの関係が解説されました。

6. 江戸の歳時記と花菖蒲
斎藤月岑編 『東都歳時記』(1838) では、 江戸の年中行事の中に花菖蒲がどのように位置づけられていたかが示され、 当時の季節感や花見文化が紹介されました。堀切の菖蒲園の様子が描かれています。

7. 洋書に見る植物図譜の世界
今回は19世紀の洋書図譜を取り上げ、 日本の本草図譜との比較を行いました。

● James Sowerby『English Botany』(1790–1814) 全36巻・2592枚の手彩色銅版画からなる英国植物誌です。植物画の精密さと芸術性が高く評価される図譜で、 本草図譜との表現の違いが紹介されました。

『Great Flower Books 1700–1900』(1956) 18〜19世紀の美しい花の本を網羅した書誌的記録集です。植物図譜の歴史を俯瞰する資料として紹介され、 世界の植物画文化の広がりが示されました。

8. 錦絵に描かれたハナショウブとカキツバタ 江戸の浮世絵に描かれた花菖蒲・カキツバタを紹介いたしました。

● 歌川広重『名所江戸百景・堀切の花菖蒲』(1857) 「堀切花菖蒲花盛の図」

● 喜多川歌麿『風俗三段娘・下品之図』(1794–95)  「当時の庶民が花菖蒲を楽しんだ風俗が描かれた図」

● 渓斎英泉『吉原要事 廓四季誌』(1816–40) 「薄端にカキツバタを活ける花魁」

これらの錦絵は、花菖蒲・カキツバタが江戸の風景や風俗に深く根付いていたことを示す資料として紹介されました。

(事務局 丹羽理恵)

草木図説

Great Flower Books 1700–1900

風俗三段娘・下品之図

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